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東大入試数学解説:円周率が3.05より大きいことを証明する問題

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東大入試数学解説:円周率が3.05より大きいことを証明する問題

「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」

これは2003年(2002年度)の東大理系数学の第6問として実際に出題された問題です。

結構大きな話題となった有名問題で良問とされていますが、僕が受験生の時代には東大理系数学でこんなに易しい問題は模擬試験も含めて 出題されたことがないため、本当に驚きでした。

しかしこの問題で満点を取るのは実はそう簡単なことではないようです。

それではここでこの問題を解いてみたいと思います。

数学の問題には必ず背景となる基礎知識があります。この問題の場合は、小学生の頃に習った円周率の定義です。

円周率の定義は、円の周囲長は直径の何倍か、つまりπ=(円周)/(直径)で示されます。

もう1つは正多角形の周囲はその外接円の円周よりも短いという事実です(言い換えれば2次元空間では 2点間の最短距離は直線だということです)。

この2つの事実を利用すればこの問題を解くことができます。

仮に正六角形とその外接円を仮定します。この正六角形の中心から外角までの距離は半径に一致します。 この半径をRとすると、直径は2R、正六角形の周囲長は6Rです。

正六角形を中心から外角までの直線により6つに分断すると、その隣り合う外角を結ぶ線は正六角形の場合は直線、 外接円の場合は弧になります。長さは当然、弧>直線ですから、 外接円の周囲長>正六角形の周囲長が成り立ちます。この辺々を直径で割ると、 π>(正六角形の周囲長)/直径=6R/2R=3となり、πが3より大きいことがこれで示せました。

しかしこの問題では3.05より大きいことを示す必要があるので、これでは不十分です。

つまり正六角形では不十分というわけです。正n角形の周囲長はnが大きくなる毎に長くなります。 つまり正n角形の周囲長はnに関する単調増加関数です。そしてn→∞の極限値は円周そのものになります。 それでは、nを一体いくつくらいにすれば、3.05を超えるでしょうか。

ここで手あたり次第、nを仮定して計算するのはやや能がないと言えます。 仮にその数字で3.05を超えなかった場合、さらにnを増やしてゼロから計算しなければならなくなります。

東大理系数学の問題は、全6問、150分という制限時間が厳然としてありますし、 この時間は決して長くはありません。こんなところで時間を浪費するのは痛すぎます。

そこで、この場合、先に一般解を求めてしまい、そのnに具体的な数字を当てはめるのが高等戦術です。 これは一般解を求めるのが比較的容易であることが直ちに分かる場合にのみ使えます。

ここで正n角形とその外接円を仮定します。この正n角形をその中心からn個の角まで線を引き、 この線によってn個の二等辺三角形に分割します(ピザを切るような形で分割します)。 そうするとこの1つの二等辺三角形は中心角が2π/nとなります。

外接円の半径をRとすると、二等辺三角形の底辺は、2Rsin(π/n)となります(頂角から底辺に垂線を引いて 三角形を2つに分けて考えれば簡単です)。 そうすると、この正n角形の周囲はそのn倍で、2nRsin(π/n)となります。

先程と同様にして、π>(正n角形の周囲長)/直径が成立するため、
π>n・sin(π/n)・・・@
が成立します。(θ→0の極限値がsinθ/θ→1であることはここからも示されます)

おそらくこの問題、図形的な考察を完全にすっ飛ばしていきなりこの式を書き下して計算したツワモノも必ずいたと思います。 (そういう天才は必ずいるものです)。

式の中にsin(π/n)が入っているので、これがある程度数値として評価できるようなnの値である必要があります。 考えられるのはn=8(中心角45度)、n=12(中心角30度)でしょうか。n=12の方が易しそうなので、これでやってみようと思います。

sin(π/12)、つまりsin 15°の計算はどうやりますか?色々ありますが、倍角の公式または半角の公式を使うのがよいと思います。 僕は倍角の公式しか覚えていないので、それを利用します。

つまり、cos(2θ)=1-2(sinθ)^2をsinθについて解いて、sinθ>0であることを考慮すると、

sinθ=√{(1-cos(2θ)}/√2

となります。θ=π/12として、sin(π/12)=(√3-1)/(2√2)

が得られます(計算は各自やってみて下さい)。

これを@に用いると、最終的に次の式になります。

π>3√2(√3-1)・・・A

この不等式の評価方法で満点が取れるかどうかが決まります。隙のない評価方法、 つまり、この式の右辺を下から確実に押さえ、その値が3.05を超えることを示すことが求められます。

√2=1.41421356・・・(ひとよひとよにひとみごろ)
√3=1.7320508・・・(人並みにおごれや)
これは中学生の頃に覚えましたね。この数字のどこまでを採用するか、です。

仮に小数点以下1桁でやってみましょうか。

つまり、√2>1.4、√3>1.7を使うとAの式は、

π>3√2(√3-1)>3×1.4×(1.7-1)=2.94

となります。2.94では不十分ですね。

それでは、小数点以下2桁まで採用してみます。いや、√2は1.4か1.41かであまり違いはないですが、 √3は1.7と1.73で結構違いますから、√3だけ小数点以下2桁まで採用してみます。

つまり、√2>1.4、√3>1.73を使うと、Aの式は、

π>3√2(√3-1)>3×1.4×(1.73-1)=3.066>3.05

おー!!3.05を超えましたね。不等式の評価で確実に3.05を超えました。

そして最後に自信に満ちた一文を入れると満点をあげたい答案の出来上がりです。

「以上により、円周率が3.05より大きいことが証明された」

採点官にこのように完答したことをアピールすれば、採点ミスによる減点が防げます。 これも実践的なテクニックです。

この問題は東大理系の数学の問題としては異例の易しさですが、話題になっているので、こうして取り上げてみました。 背景となる知識についても詳しく説明したので、解説は結構な長さになってしまいましたが、 実際の試験ではここまで書かなくてももちろんOKです。分かりやすい図をきちんと書けば、 言葉の説明はそれほど必要ありません。

この問題に限らず、数学ではただ闇雲に解き始めるのではなく、その問題が何を尋ねているのか、 何を求めているのか、背景となる知識は何かなどを落ち着いて考え、咀嚼することが得点力アップの秘訣です。

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